スズキの軽自動車用エンジン

スズキの軽自動車用エンジンは1978年に550ccのF5Aが登場しました。軽自動車用としては同社初の4ストロークエンジンでした。3気筒エンジンでボア62.0mm,ストローク60.0mm,排気量は543ccでした。スズキは360cc時代は4ストロークエンジンは持たず,2ストロークのみでした。F型エンジンは軽自動車の規格が660ccになっても使われ,F6Aとなりボア65.0mm,ストローク66.0mm,排気量は657ccでした。またストロークを49.6mmに短縮し,1気筒増やし4気筒としたF6Bも登場しました。これらのエンジンのボアピッチは72mmでした。その後,ボアピッチを80mmとしたK6Aが登場します。

ホンダの軽自動車用エンジンの変遷

ホンダの軽自動車用エンジンは1988年にトゥデイがマイナーモデルチェンジした祭に従来の2気筒エンジンに替わり3気筒エンジンが登場しました。これがE05A型エンジンです。ボアが62.5mm,ストロークが59.5mmで排気量は547ccでした。以後,このエンジンは排気量を拡大され軽自動車の規格が変わり排気量の上限が660ccとなっても使われました。1990年の規格変更でボア66.0mm,ストローク64.0mm,排気量656ccのE07Aとなりました。またE07A型から派生したエンジンとして初代インサイト用のエンジンがあり,これはボア72.0mm,ストローク81.5mmで排気量は995ccでした。2003年のライフのフルモデルチェンジの際に新しいP07A型エンジンが開発されました。これは同じく3気筒でボア71.0mm,ストローク55.4mm,排気量は658ccでした。これらのエンジンのボアピッチは共通で80mmでした。

2011年には新開発のS07A型エンジンがN-BOXに搭載されました。これはボア64.0mm,ストローク68.2mmで排気量は658ccでした。このエンジンのボアピッチは従来の80mmよりも短縮され76mm(?)とのことです。ホンダは1,000ccのVTECターボエンジンを発表していますが,ボアピッチを短縮したこの軽自動車用エンジンとの共用化は難しいかもしれません。

スズキのエンジン

スズキ初のV6エンジンは1994年のマイナーチェンジ時にエスクードに搭載されたH20Aでした。当時のスズキはマツダと提携をしておりこのマイナーチェンジではマツダから供給を受けたディーゼルエンジンも採用されました。H20Aはボアが78.0mm,ストロークが69.7mm,排気量1,998ccでした。マツダのK型かと思えば,2.0LのKF-ZEはボアこそ同じ78.0mmでしたが,ストロークは69.6mmと1mm異なり,排気量は1,995ccでした。ニューモデル速報によればスズキのH型V6のボアピッチは102mmでマツダのK型の97mmよりも5mm大きい値でした。K型が最終的にはボア84.5mm,ストローク74.2,排気量2,496ccのKL-ZEまで排気量を拡大したのに対して,スズキのH型はボア88.0mm,ストローク75.0mm,排気量2,736ccまで排気量が拡大されました。H型の方がボア,ストロークともに拡大の余地が大きかったのかもしれません。

また,3代目エスクードに搭載されている直列4気筒のJ20AエンジンはボアピッチがH型と同じ102mmで,ボアはH25Aと同じ84mmです。シリンダーヘッドも25°というバルブ挟み角,吸排気バルブの口径,カムシャフトの駆動方式などはH25A,H27Aと共通とのことです。102mmのボアは直列4気筒エンジンにしては大きめですが,H型との設計を共通化したことが理由だと思われます。

(スズキのエンジンについて「ニューモデル速報 第358弾 新型エスクードのすべて 電子版」を参照しました。)

マツダのJ型とK型V6エンジン

マツダは1986年に初のV6エンジンであるJ型エンジンを発表しました。このエンジンのボアピッチは1983年に登場した日産のVGと同じく108mmでした。JFの排気量は2.0リッターで後に3.0リッターに排気量が拡大されたJEが登場します。日産のVGはといえば最終的には3.3リッターにまで排気量が拡大されました。

1991年にはマツダは新しいV6であるK型を発表します。このエンジンのボアピッチは97mmであり排気量は1.8リッターから2.5リッターまでがありました。

さて,マツダのJ型とK型の大きさの違いはどの程度でしょうか。両者が相似形であると仮定すると体積はボアピッチの比の3乗に比例すると言えます。したがって,(108/97)の3乗を計算すると1.38となります。2.0リッターのKL-ZEエンジンの重量が155kg,3.0リッターのJEエンジンの重量が206kgで,(205/155)=1.33となり当たらずとも遠からずといった値になります。

また体積比からJ型エンジンの上限排気量を推定するとK型の最大排気量2.5リッターの1.38倍から2.5×1.38=3.45となります。最終的には3.0リッターまでしか排気量のラインナップがなかったJ型ですが,もし開発が続けられたならば3.5リッター近くまで排気量が拡大されたかもしれません。

国産V型6気筒エンジンの歴史

1983年に日産が日本初のV型6気筒エンジンVG20Eを市販した。次いで1985年にホンダがC20Aを,1986年にはマツダが2,000ccのJF,三菱が2,000ccの6G71と3,000ccの6G72を市販した。1987年にはトヨタが2,000ccの1VZ-FEを市販した。また1991年にはマツダと三菱がそれぞれ小排気量のV6を市販し,1994年にはスズキがH20Aを市販した。

1983年から1987年に各社から発表されたエンジンは下限の排気量を2,000ccとし,バリエーションとして同時にまたはその後に2,500ccや3,000ccのエンジンが登場した。

これらのエンジンとは別に1991年にマツダと三菱が発表したV6エンジンはマツダが1,800cc,三菱が1,600ccという小排気量であった。両者はすでに1986年にV6エンジンを市販していたが,より軽量でコンパクトであるこれらのエンジンを市販した。両者とも排気量の上限は2,500ccであった。

ここで各社のエンジンのボアピッチを整理する。
日産のVGが108mm,ホンダのC型が100mm,マツダのJ型が108mm,三菱の6G7が108mm,トヨタの1VZが109mmとなっている。ホンダを除く各社がほぼ同じボアピッチとなっている。他社のV6はバンク角が60°であるのに対して,ホンダは90°である。V型6気筒の燃焼間隔は120°であるため,バンク角が60°,90°では左右のバンクでクランクピンを共有することができず,位相をつけるためにウェブをもうけることになる。60°バンクでは位相が60°であるのに対して90°では30°ですむ。そのためにクランクシャフトが90°バンクの方が短くできるのかもしれない。また,1997年に登場したホンダのJ30Aはバンク角が60°となったがボアピッチは98mmと短くなった。この時の論文ではバンク角の違いによるボアピッチの違いに言及しておりおおむねこの推測で良いようだ。

マツダと三菱の小排気量V6のボアピッチはマツダのK型が97mm,三菱の6A10は不明であるが,後に出た6B31が98mmであることから同程度であったと推測される。ボアピッチが98mmであるホンダのJ型V6は最終的にストロークを96mm,ボアを90mmとすることで3,664ccを得ている。J30Aのボア×ストロークは86×86mmのスクエアであった。マツダのK型ははたしてどのくらいの排気量に対応出来たのであろうか。2,500ccのKL-ZEのストローク,74.2mmではボアを目一杯の90mmまで広げても3,000ccには届かない。ボア90mm,ストローク78mmで2,977ccとなる。やはり当初より2,500ccを上限としてストロークを延ばさないことを前提としていたのかもしれない。

この文章はマツダの大小ふたつのV6のボアピッチを比較し,KJ-ZEMのダウンサイジング効果を検証しようとしたところ,ホンダのV6のボアピッチが他社と比較して短いことに気が付いたことから書いたものです。

ダウンサイジングで燃費が良くなる理由

ダウンサイジングエンジンの燃費が良くなる理由の一つは排気量を縮小しているからですが、それを図示してみました。
図で横軸が回転数を固定した時の負荷の大きさの割合、縦軸が燃料消費率です。青い線が排気量2,000cc、赤い線が1,000ccの場合のイメージです。あくまでもイメージであって実測値ではないです。

ガソリンエンジンは負荷が小さいと効率が悪く、高くなるにつれて効率が良くなっていきます。しかし、全開ではかえって効率が悪くなります。また、図で示したように排気量が半分の1,000ccでは2,000ccの半分の50%までで線が切れているように、同じ回転数では約半分までしかトルクがでないことを示しています。そのため、同じ負荷で比較出来るのは50%のところまでです。1,000ccの赤い線は2,000ccの線を元にX軸方向に圧縮して描きました。負荷が小さいと2,000ccよりも1,000ccの方が効率が良くなっています(数字が小さいほど熱効率が良い)。イメージなので1,000ccが全開の時と2,000ccの50%のどちらが良いかはなんとも言えませんが10%から30%のように使う頻度が高いところでは1,000ccの方が効率が良くなっているのがわかると思います。

しかし、実際の自動車では排気量が小さければ同じ回転数ではなく相対的に高い回転数を使います。したがって、小排気量のメリットを生かすには同じ回転数を使えるように過給することで元の排気量と同じトルクを出すことが考えられます。過給すると圧縮比を下げることによって自然吸気状態よりは効率が落ちるかもしれませんが、排気量が大きな自然吸気エンジンよりは効率が良いと思われます。

これが過給によって燃費を良くするダウンサイジングエンジンの概念です。

ダウンサイジングエンジンの歴史

近年の過給ダウンサイジングエンジンの流行の起源はフォルクスワーゲンのTSIであることは間違いないと思います。ではそれより先に明確にダウンサイジングを打ち出したエンジンと言えばマツダのミラーサイクルエンジンでしょう。

マツダのミラーサイクルエンジンは1993年にユーノス800に搭載されてデビューしました。リショルムコンプレッサで過給された2.3リッター(2,254cc)エンジンは「3,000ccなみの馬力で2,000ccなみの燃費」をうたっていました。最高出力220馬力、最大トルク30.0kg・mはまさに3,000ccなみのスペックでした。燃費の方は後に追加された2,000ccエンジン搭載グレードの10.0km/Lを上回り10.6km/Lでした。

マツダのミラーサイクルエンジンは3リッター自然吸気エンジンを2.3リッター過給エンジンで代替したと言えます。マツダはこのエンジンで世界で初めてリショルム式の機械式過給器を用いました。ではなぜリショルムなのでしょうか。マツダはルーチェにV型6気筒2,000ccのターボ過給エンジンを採用していました。このエンジンも一種のダウンサイジングエンジンとして開発されましたが、ターボではレスポンスが大排気量自然吸気エンジンなみとは行かず、圧縮比を下げているために燃費も良いとは言えなかったようです。そこでミラーサイクルエンジンでは過給の遅れの小さい過給器として機械式過給器を選び燃費を向上させるために圧縮比と膨張比を別々に設定するミラーサイクルを適用したのでした。また、従来広く用いられていたルーツ式過給器では効率が低く過給圧も高く出来ないためにマツダはまったく新しいリショルム式過給器を用いたのでした。

後年「ミラーサイクルは低速トルクが不足するので過給した」という説明がされることがありますが、実際は当初から過給することが第一の前提であり、従来の過給エンジンの圧縮比低下による燃費の悪化を防ぐためにミラーサイクルを適用したというのが正しい説明です。